浄土宗東京教区・教化団 -今月の法話-
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今月の法話≪東京教区所属の僧侶による法話を連載いたします≫

平成30年2月「想う」宮田恒順(豊島組善光寺)

2018 年 2 月 1 日

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 もし「生涯で一番美味しかったものは?」と聞かれたら皆さんは何と答えますか。大学生の頃、ある講義で先生に質問されました。その場で10分ほどの時間が与えられ、受講生は皆、原稿用紙一枚の作文を提出したことを覚えております。

 提出が終わると、それぞれの学生が作文を発表することとなりました。雪山に登った時に疲れ切った体で食べたカップラーメン、特別な記念日に家族と食べた夕食、初めて自分の力で稼いだお金で食べた高級料理などなど、約30名の多様な発表は最後まで興味深く面白いものでした。

 このテーマを出した先生も、終始笑顔で発表に耳を傾けていらっしゃいました。一つ共通していたのは、どれもが自身にとって特別な思い出となっているということです。思い出というものは不思議です。他人から見たらそれ程だとしても、本人からしてみれば何ものにも変えられない大切なものだったりします。

 先生は文章に触れる機会が多い仕事に就くかどうかは別として、人の織り成す文章から感受性や想像力を育むことをいつまでも大切にして欲しいと締めくくられたことを覚えております。

 2002年に質量分析の研究でノーベル化学賞を受賞した田中耕一博士はあるインタビューの中でこんなことを仰っていました。科学技術が発展した理由の一つには漫画があるというお話です。それは発想する力に影響を与えたから。想像力の豊かさが研究に繋がり、大事を成し遂げていく。

 このことは、人が生き死にを考える時も同じように大切なのかもしれません。私たちはどこから来てどこへ向かうのか。いつかこの命を終えていく私たちはどうなっていくのか。餓鬼のいるような世界や地獄の炎に焼かれるような世界に落ちていくことを止めるために、阿弥陀如来さまはお念仏のお誓いを用意して下さいました。私たちの往く末を想い、南無阿弥陀仏と称える者を必ず西方極楽浄土という世界に救うと誓って下さったのです。おとぎ話のような、架空のものの様に聞こえるかもしれません。しかしどのように判断するかは別として、どうか豊かな想像力をもって命の一大事に向き合ってみて頂きたいのです。

 2月は15日がお釈迦さまのご入滅された日にあたり、そのことを偲んで各地で涅槃会が営まれます。お釈迦さまにお会い出来なかったことは悲しいことでありますが、しかし、私たちの命の往く末をみ教えとしてしっかりと残して下さったことは本当に嬉しく有り難く思います。お念仏をお称えするこの私にはたとえ目に見えなくても寄り添って下さる方がおり、命を終えていく時には浄土という往き先があるということ。この信仰の灯りは今を生きるこの身をあたためてくれます。

 幸せな思い出を沢山作ることも出来るこの世の中です。しかし、その反面、老いがあり、病があり、命も落としていくこの世の中でもあります。

 前述の田中耕一博士は今、認知症の治療薬の研究開発もされているとのことです。大切な思い出すらも、時に奪われてしまうかもしれない私たちです。ですが、そんな憂いや悩みに迷う世界で生きる私たちだからこそ、阿弥陀如来さまは仏の眼で涙を流し、その姿に寄り添うと誓って下さいました。阿弥陀さまが寄り添って下さるお念仏の日暮らしの先にあるのは、沢山の大切な思い出をまた懐かしむことが出来る場所であり、大切な方とまた語り合うことが出来る浄土です。

 私自身、いつか命を終えていきます。その時には10年前作文に書いた「生涯で一番美味しかったもの」の思い出や、今持っている大切な思い出、この先で抱えることが出来るかもしれない失いたくない思い出を持って、阿弥陀如来さまにお救い頂く予定です。大切な思い出と一緒に、御礼の言葉も持って往こうと思います。2月、春の足音近づく中で、ご自身の命とその往き先に想いを馳せてみてはいかがでしょうか。合掌

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