「復興のともしび」
新谷仁海(豊島組功徳林寺)
阿弥陀さまの慈しみの光明のもと、つつがなく新しい年をお迎えになられましたこととお慶び申し上げます。
皆様は、年の初めにあたり、「今年も……」「今年は……」「今年こそは……」との意を、昨年にあった出来事を基にして、同じように、あるいはそれ以上にと、さまざまな願いや誓いを決められたことと思います。
私事ですが、昨年の4月より浄土宗宗務庁に新設されました災害復興事務局長の任を預かり9ヵ月になります。東日本大震災で被災されたご寺院、檀信徒をはじめ地元の多くの方々の物質・人心両面における復興の一助を成すことを大きな柱とし、国内のみならず海外開教区の浄土宗寺院、檀信徒、さらには一般の方々からの義捐金や物資などのさまざまなご協力をいただきながら、一宗を挙げて取り組んでおります。
寺院の復興は、本堂をはじめとした建物再建のための経済的な支援が中心です。これにより、津波で大規模被害を受けた寺院のうち、数カ寺の本堂・墓所が修復にこぎつけました。しかし、いまだご住職はお寺に住むことが出来ず、檀信徒の家々は再建の目途すら立っておらず、多くの方が仮設住宅で生活されている状況です。原発による被害で避難を余儀なくされている寺院のご住職は戻ることすらかなわず、檀信徒は全国各地に分散されて、寺院運営という点でまだまだ先が見えません。
人心の復興については、檀信徒をはじめ被災された方々へのボランティア活動を通して、痛んだお心を癒し、少しでも安らかなお気持ちになっていただくための方策を講じております。若い青年僧侶が主体となって、定期的に仮設住宅を訪問させていただき、炊き出しや茶話会、被災された方々のお話を伺う傾聴(けいちょう)などを主に行っているほか、11日の月命日には、この震災により尊い命を失われた方々の慰霊法要を営んでご供養をさせていただいております。
また、福島の子どもさんたちを思いっきり屋外で遊ばせ、笑顔を取り戻してもらうことを願ってのキャンプを夏休み、冬休みに企画実施致しました。子どもたちや仮設住宅の方々から、もし少しでも信頼をいただけ、心に寄り添うことが出来ているとしたら、何よりも諸方面大勢の方々からのご理解ご協力の賜物であり、これに勝る喜びはありません。微力ながら、本年も引き続き復興のための諸事業に邁進していく所存でおります。
さて、浄土宗が依りどころとしている経典『無量寿経』巻下に、次のような一節があります。
天下和順 (てんげわじゅん)
日月清明 (にちがつしょうみょう)
風雨以時 (ふうういじ)
災厲不起 (さいれいふき)
国豊民安 (こくぶみんなん)
兵戈無用 (ひょうがむゆう)
崇徳興仁 (しゅうとくこうにん)
務修禮譲 (むしゅらいじょう)
これは次のように訳すことができます。
お釈迦様の諭された御教えに順(したが)って善行を修めるならば、私たちの住む世界は穏やかとなり、太陽や月は清らかに輝き、その時節に合わせて適度の雨が降り、風が吹いて、天変地異や疫病などの災いが起こることはありません。そして国々は豊かに栄え人々の暮らしは安らかになり、武力を行使することなどもありません。人々は他人の善いところを尊び合い、互いに思いやりの心を持ちながら、礼儀正しく振るまうことに努め、また譲り合いの精神を持つのです――。
まさに、21世紀の現代社会においても、この教えのようにありたいものだと切望いたします。
私たち人間の飽くなき欲求が招いた地球の温暖化、自然破壊の影響が、私たち自身に大きく及んできております。「善行を修めるならば」という、仏さまの意にかなっているかどうか、自らの生活を今一度見つめ直し、「物で栄え心で滅びる」ことにならないよう、僅かなものにでも満足できる心を持ち、生き方を探り、日々を暮らしていきたいものです。
この一年、皆様ご自身の思いが叶いますことを、また災害や事故、事件などにより命を落とされた方々がお浄土で安楽でありますことを祈り、併せて被災された方々の一日も早い安穏を念じ、復興のともしびを絶やすことなく歩んで参りましょう。
皆様のご健勝とご多幸を祈念申し上げます。
合掌