浄土宗東京教区教化団

平成28年1月「大切な方との絆 いつまでも」武田義親(八王子組龍泉寺)

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「大切な方との絆 いつまでも」

武田義親(八王子組龍泉寺)




「ねぇ?ママ泣いているの?」
「ごめんね。続き読むね。」
下から覗き込む娘も涙目。ママはこぼれる涙を抑えながら絵本の続きを読む・・・
『これからママのいうこと、おぼえていてほしい。』
・・・2015年、日本中の家庭で泣きながら絵本を読むママたちが続出しました。

 あけましておめでとうございます!2016年が始まりました。
 皆様にとって昨年はどのような年だったでしょうか。
 暗い話が続いた昨年ですから、年の初めのお正月は、歳神様をおもてなしして、1年間の家族の平穏無事を願いたいものです。

 え?歳神様って?
 お正月はその家のご先祖様である「歳神様」をお招きする行事です。旧年中見守り、導いてくれたご先祖様をお料理でおもてなしして、新たな一年の無事をお願いするのです。つまり、おせち料理は「奥様たちがお正月にゆっくりするための保存食」ではないんですね(笑)。
 よく「死んだらハイそれまでよ!」とか言いますが、決してそんなことはないんです!
 私たちが、先立った大切な方を思って生きていくように、亡くなった方も、私たちのことを思い、導いてくれています。

 宗祖法然上人様が、ご詠歌に残されております。

  うまれては まず思いでん ふるさとに
        契りしともの ふかきまことを

「うまれては」とは、亡くなった後、阿弥陀様にお救いいただいて極楽浄土へ生まれ変わったならばということ。
「ふるさと」はこの世。この世で約束を交わした方との絆を、極楽浄土に生まれ変わったら真っ先に思い出しますよ、と仰せです。
ではどんな約束を交わしたのでしょうか?
それは、お互い天寿を全うしたならば、必ず阿弥陀様にお救いいただき、極楽浄土に生まれ変わって、そこで再会しましょう!という約束です。
阿弥陀様のみ教え、お念仏で結ばれた強い絆、それが「ふかきまこと」なのです。

 来世を願うのは人として当たり前の事、お亡くなりになった方と絆が続くことを、誰もが願います。
しかし来世において、この世の絆が続くことは非常に困難なことです。生活の中で様々な「宗教的な罪」を犯し続けている私たちは、来世に人として生まれ変わることすら保証はありません。

 しかし、阿弥陀様はそんな私たちだからこそ「救いたいんだ!」と、誰でも極楽浄土へと生まれ変わることのできる修行「お念仏」をお示しくださり、私たちを極楽浄土へとお救い下さるのです。
そのおかげ様で、私たちは亡くなった方との絆を維持し、天寿を全うした後は、極楽浄土で大切な方と再会することが「確実」に叶うのです。

 私たち日本人が「『あの世』『天国』で見守っていてね」と言う時の裏には、この大前提があるのですが、何百年も当たり前になってしまい、「なぜ」とか「どうやって」「どこで再会する」といった部分が伝わらなくなってしまっているようです。

 歳神様だって、確実に「あの世」(極楽浄土)へ行っているからこそ、ご先祖様となって見守り、導いてくださるんです。
 私たちは、お念仏を称えて阿弥陀様にお救いいただいて、初めて大切な方との絆を維持できることを忘れてはならないのです。

 さて、冒頭にお話した絵本『ママがお化けになっちゃった!』をご存知ですか?10万部売れたらベストセラーの絵本業界で、昨年夏の時点で20万部。今はもっと売れているであろう話題作です。

 おっちょこちょいな主人公ママは事故にあって亡くなってしまいます。しかし4歳の息子かんたろうが気になって仕方ありません。ちゃんと1人で生きていけるのか・・・。そこでお化けとなってかんたろうの元へとやってきます。

 夜12時を過ぎると、かんたろうにもお化けのママは見えるようになり、様々なことを言い残します。そして最後に『これからママのいうこと、おぼえていてほしい。』と切り出します。

 いかにかんたろうのことを愛していたか。出会えたことがどれほどの幸せだったか・・・。かんたろうは泣きながら眠りにつきます。
翌朝目覚めると、かんたろうはママに届くように声に出して言います。
『ぼく、がんばってみる。ひとりでやれるよ。』

 ママの後悔、残された息子への気がかりも、よくわかります。
亡くなった方も、残された遺族も、お互いの事が気になって仕方がない。ましてや、「家族の絆が切れる」「忘れられてしまう」なんて考えられませんよね。
だからこそ、お亡くなりになった方へは、「忘れてないよ」「いつも見守り導いてくれてありがとう」と思いを伝え、絆を育む機会が大切なのです。

 お正月、春彼岸、お盆(お施餓鬼)、秋彼岸、そしてご命日。ぜひ絆を深め、思いを伝える日にしてください。

 そして、私たちは元気に生きている「今のうち」から、ずっと絆がつながっていられるように、阿弥陀様にお願いし、極楽浄土で再会するのだという認識を、家族で共有し約束しておく必要があるのです。

 そのためには「阿弥陀様どうかよろしくお願いします!」と思いを込めて「南無阿弥陀仏」と声に託してお称えする日暮らしを、家族みんなで大切にして参りましょう。
そう、決意は声に出して。かんたろうのように!

2016年が、皆様と大切な故人が共に生きる、良い年でありますように。 合掌

参考文献
『ママがおばけになっちゃった!』 作:のぶみ 出版元:講談社