浄土宗東京教区教化団

平成28年4月「人間らしい社会とは」 後藤信之(城西組光専寺)

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「人間らしい社会とは」


後藤信之(城西組光専寺) 



 近頃とんとお目にかからなくなった人がいる。大法螺を吹く、大風呂敷を広げる類の人である。この類の人は良かれ悪しかれ愛嬌があり魅力があった。そして何より脇が甘く、懐が深い。元・内閣総理大臣・故田中角栄さんや日本映画の名作「男はつらいよ」シリーズの名優・故渥美清さん演ずる「寅さん」に代表されるヒーロー的な存在でもあった。
 
 東海道新幹線の最短運転間隔が3分であるとか、朝の通勤時間帯のJR山手線の運転間隔が1分とか‐最新式のコンピュータによる制御のおかげで‐恐ろしい程の時間の数値である。

 1㎝の何十分の一かのスペースに何千本からのトランジスタの入ったIC回路により正確に作動する。
 今の世の中・あまりにも「正確」のとりこになり過ぎてしまった。法螺や大風呂敷は正確でないところにある種の魅力があり、共鳴すべきところがあり、また実現へのあこがれがあった。

 科学者からは、サンマのお焦げを食うとガンになると言われて驚かされる。目黒のサンマでガンになっても構わぬ。本望じゃ。科学分析がどんなに正確な細かい数字を並べてもそんなものなどくそくらえである。機械がはじき出したデータなどで人間さまの世の中が決められてたまるものか。
 
 世の中・あまりにも数値やデータに頼りすぎている。データに振り回され・データがあれば何でも正しいと思ってござる。
 人間くさく、どろくさい。一見すき間だらけの世の中の方が余程温かく明るく楽しいかをご存じないか。もしデータが100%正しければ、先のサッカー日本女子チームは優勝できたはずである。

 本物とは何ぞや。それは「確からしさ」にあると思う。ハイゼンベルクの不確実性の原理である。らしさとはゆとりであり、心である。

 規則や法律は最小限度が最も優れた文明国家という。あとは人間らしさで行く。これが本当の人間らしい心の通った社会ではあるまいか。草葉の陰で田中の角さんや寅さんは何と思っているであろうか。彼らのような御仁が登場する世の中は、果たしてまたやってくるであろうか。最近ふとそんな事を考えてしまうのだが・・・。