浄土宗東京教区教化団

平成30年3月「生きてる 生きてく」内田智康(玉川組信樂院)

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「すみません、住職かと思いました。」
最近、寺にかかってくる電話に出るとよく言われる言葉です。
 私は現在生まれ育った寺で副住職を務めさせていただいており、住職は私の父です。体形は父のふっくらしたそれに徐々に近づいている実感はありましたが、声やしゃべり方も年々似ていくそうです。さらには、私の子どもも、時折父によく似た表情を見せることがあり、遺伝は怖いものだとドキッとさせられます。

 今回のタイトル『生きてる 生きてく』は、2012年に公開された『ドラえもんのび太と奇跡の島』という映画の主題歌です。歌手や俳優などマルチに活動されている福山雅治さんが作詞作曲をされて、ご本人が軽快なメロディーにのせて歌っていらっしゃいます。その中で次のような歌詞が出てまいります。

 そうだ僕は僕だけで出来てるわけじゃない 
 100年1000年前の遺伝子に 誉めてもらえるように
 いまを生きてる 

 こんな僕の人生のいいことやダメなことが
 100年先で頑張っている遺伝子に 役に立てますように
 いまを生きてる

  
 何千年も前から脈々と受け継がれてきた奇跡の結晶である自分の生命に感謝し、それをかみしめて丁寧に生きていこうという意思、また、未来に生きる自分の子孫へとつながっているこの生命を精一杯生きていこうという意思を、子どもにも親しみやすいように、あえてくだけた文体の歌詞にされています。

 私の息子がこの曲を聴いて、「100年前も1000年前も、自分と血がつながってる人が生きているんだねー」と感動した顔をしていて、平易な言葉を使う重要性と音楽の偉大さを感じるとともに、私が今まで折々に話してきたご先祖の話は全く響いていなかったのだなと、自分の説教力の乏しさに愕然といたしました。

 改めて自分のことを振り返ってみると、ふとした時の口癖やものの考え方など、多くのことが誰かの影響を受けてできていることに気づかされます。それは血縁による遺伝はもちろん、学生時代の先生や友人、以前勤めていた会社の上司など、自分に関わる全ての人たちから様々なものをこの身に頂戴し吸収し、私という人間が出来上がっていることを痛感させられるのです。もちろん良いところも悪いところも含めてですが。
 きっと皆さんも多かれ少なかれ、そういった部分があるのではないでしょうか。

 間もなく春のお彼岸を迎えます。
 お彼岸は、我々の行きつく先が阿弥陀様のいらっしゃる西方極楽浄土であることに思いを馳せる期間です。生きている間はお念仏の功徳を積むとともに阿弥陀様のお守りを受け、死を迎えたならば、先立った方々の待っている極楽浄土へ必ずお連れいただけるのだという、生きていく上での「安心」を心に植え付ける大切な仏教ウィークといえます。

 今年のお彼岸はそれと同時に、極楽浄土でお待ちいただいているご先祖さまや縁のあった方々のことを思い出し、先ほどの歌詞にもあるように、ご自身の中にその方の「いいことやダメなこと」のかけらを探してみてはいかがでしょうか。その人の良かったところはしっかりと受け継がせていただき、好きじゃなかったところは自分の中にそれがないかを確かめる。きっと先立った皆さまを本当の意味で自分の中にもう一度「活かす」ことになり、より心のこもったご供養へとつながってまいります。

 さらには、今の自分の一挙手一投足が、顔も知らない子孫や後の人々へと受け継がれていく、そんなことにも少し心を傾け、お念仏とともにお過ごしください。
 南無阿弥陀仏