浄土宗東京教区教化団

平成31年3月「知っておいてほしい“成年後見制度”のこと」茂田知暁(八王子組勝楽寺)

shigeta_s

 突然ですが、皆様は“成年後見制度”とは何かご存知でしょうか。すでに制度を利用しているという方はもちろん、テレビなどで取り上げられることもあるので、名前は知っていても内容まではよくわからないという方、または全く聞いたことがない方もいるかと思います。
私のお寺では、過去に何度か“成年後見制度”の講習会を行ったことがあり、今でも必要に応じて相談を受けたり専門家を紹介したりしています。法律のことですから僧侶にとって専門外のことですが、少子高齢の日本社会で檀家さんを守るためにはどうしても必要なことだと私のお寺では考えています。しかし、制度のことに関心のない方は、当然講習や相談には来てくれません。今回はこの場をお借りして、“成年後見制度”のことを簡単にですが説明して、少しでも関心を持つ方が増えていただければと思います。

“成年後見制度”とは、「老化・認知症や知的障害などで判断能力が不十分な方が、財産管理や各種契約の際に不利益にならないよう、家庭裁判所に申し立てをしてその方を援助する人(後見人)を付けて、法律面・生活面から保護し支援する制度」です。例えば、「認知症にかかった家族を介護施設に入居させるために本人の定期預金を解約したい。」という場合、家族なら手続きができると考えている方も多いですが、事実として後見人でなければ手続きは難しいです。他にも、“成年後見制度”を上手に利用すれば、一人暮らしの老人が悪質な訪問販売で高額な商品を買ってしまった時に被害を防ぐことができるなど、様々なメリットが考えられます。

“成年後見制度”は大きく分けて“法定後見制度”と“任意後見制度”の2つがあります。今回私が特に皆様に知っていただき、そして利用してほしいのは、この“任意後見制度”の方です。“任意後見制度”とは、本人の判断力があるうちに、将来の後見人と援助してもらう内容とを本人自身で事前に決めておける制度です。基本的にはどんな人でも任意後見人になれるので、頼ることのできる親族がいない方でも、信用のおける友人や弁護士・司法書士などの専門家を頼ることができます。一方、“法定後見制度”とは、本人の判断力が衰えてしまった後に、その方の家族や市区町村長などが申し立てをして利用する制度で、以前の禁治産制度に当たるものです。

「誰がいつ認知症になるかなんてわからないし、気にするのは早くないか。」と考える方もいるでしょう。確かに、将来のことは誰にもわかりませんし、判断力が衰えてからでも“法定後見制度”は利用ができます。しかし、それだと誰が後見人になるのか、何を支援してもらうのかなどは家庭裁判所が決めることになり、今現在の本人の意志は尊重されなくなってしまいます。ですから、ご家族や皆様自身が元気なうちに、いざという時に備えて“任意後見制度”を利用しておけば、将来にわたって皆様が希望する暮らしを実現できる可能性が高くなるのです。

 お釈迦様は人生の苦しみを大きく分けて「生老病死」の四つの苦を示されました。“成年後見制度”はこの「生老病死」のための準備です。そして普段からのお念仏は阿弥陀様の極楽浄土に往生するための準備です。法律と宗教を上手に使い、不安を解消して、安心の出来る人生を過ごしていただければと思います。
ここでは詳しく書けませんでしたが、“成年後見制度”は対象の方にあわせて様々な種類が用意されています。もし関心を持っていただけたなら、是非インターネットや書籍などで詳しく調べるか、専門家に相談をしていただければ幸いです。
合掌 南無阿弥陀仏